数学の教科書を広げた私の目の前に、突然顔が現れた。

効果音を付けるなら、ひょこっという感じだろうか。

いや、ぴょこ……かな。


「何って……次は数Bでしょ?
だから、教科書開いただけなんだけど……」

「あーなるほどっ!
いや、千夏は読書好きだからさ、また新しい本を見つけたんじゃないかって思って!」


弾けるような笑顔でそう言う雅樹[まさき]に、いつものようにどきっとした。


いつからだったかな。

雅樹のことをこんな風に意識し始めたのは……。


高1の時、クラスで上手く友達を作れなかった私に、1番最初に声をかけてくれたのが雅樹だった。

人懐っこくて、格好良くて、すぐにクラスの人気者になった雅樹。

そんな人間と自分が話してるなんて信じられなくて……。


思わず身構えてしまったのは自然な反応だったと思う。


別に、人間不信とか引きこもりとか、そういう訳じゃない。

でも、昔から『千夏ちゃんはおとなしいね』なんて言われ続けている私の性格では、新学期のお友達作りは至難の業だったんだよね。