「仕方がないよ、村なんだから」

「毎朝大変だったんだね、千夏……」

「気付くの遅すぎよ」


何気ない会話を交わしながら、私達はバスに乗った。


雅樹以外には姿も見えない私は、電車もバスも運賃は払ってない。

罪悪感もあるけど、自分だけの特別な状況には、少しだけ優越感も感じた。


「図書館ってどこにあるの? バス停からは歩いて行ける?」


人がまばらにしか乗っていないバスの1番後ろに座った雅樹が、声を押さえて言った。


「うん。歩いてすぐだから問題ないよ。
図書館っていうか、公民館に少し本が置いてあるだけなんだけどね。人もいないし、確か、歴史みたいなことが書いてある本もあったはずなの」

「何か手がかりがあるといいね!」

「うん」


何でもいいから手がかりが欲しい。


いつまでもこのままでいるわけにはいかない。

……いたくない。


雅樹の傍にはいたいけど、それはこんな状態でのことじゃないから……――――



それから約30分。

私たちは普段と同じように話ながら、南和良村を目指した。