航の声だ。
誰かに怒っている。
「あいつは好きで厳しい家に生まれてきたわけじゃねえ。今回だって、軽音の合宿って正直に言ったら許してもらえねーから、勉強合宿だって嘘ついて、参加同意書にこっそり印鑑押して来てるんだよ。切実な気持ちで音楽やってんだよ」
「だから同情しろとでも? 甘えんじゃないよ。本当に自分がやりたいことなら、親くらい説得してくればいい。男ならこそこそしないで、堂々としろっつーの」
言い返したのは亜依だ。
いかにも亜依らしい、勢いのある言葉が刃となって航に襲いかかる。
航が応戦する。
「詳しい事情も知らないくせに、簡単に言うな。他人の家のことに口出しすんな……!」
「わかった。じゃ、黙る。放っておく」
「逃げるのかよ。言いたいことだけ言って……ずるいだろ!」
足音が遠ざかる。
このまま廊下の角を曲がったら、そこには航がいる。わたしはその光景を見たことがある――。
流れを変えなきゃ。
ロの字型になっている廊下を逆回りして、わたしは亜依を追った。
昇降口で、上履きを投げ捨てた亜依に追いつく。
「待って」
誰かに怒っている。
「あいつは好きで厳しい家に生まれてきたわけじゃねえ。今回だって、軽音の合宿って正直に言ったら許してもらえねーから、勉強合宿だって嘘ついて、参加同意書にこっそり印鑑押して来てるんだよ。切実な気持ちで音楽やってんだよ」
「だから同情しろとでも? 甘えんじゃないよ。本当に自分がやりたいことなら、親くらい説得してくればいい。男ならこそこそしないで、堂々としろっつーの」
言い返したのは亜依だ。
いかにも亜依らしい、勢いのある言葉が刃となって航に襲いかかる。
航が応戦する。
「詳しい事情も知らないくせに、簡単に言うな。他人の家のことに口出しすんな……!」
「わかった。じゃ、黙る。放っておく」
「逃げるのかよ。言いたいことだけ言って……ずるいだろ!」
足音が遠ざかる。
このまま廊下の角を曲がったら、そこには航がいる。わたしはその光景を見たことがある――。
流れを変えなきゃ。
ロの字型になっている廊下を逆回りして、わたしは亜依を追った。
昇降口で、上履きを投げ捨てた亜依に追いつく。
「待って」

