シークレット・サマー ~この世界に君がいるから~

 自由な気持ちでね、と強調して衛藤先生は部室を出ていった。
 自由って、怖い。
 この先、なぞるべき筋書きはない。
 前回、少し立ち聞きした航と誰かの言い争いも、今回同じように発生するとは限らない。
 わたしが早いバスに乗り、遥人と登校した時点で、前とは違う一日が始まっている。
 オリンピックの選手はもちろん、身近な部員たちがどう行動するかもわからない。
 自分の行動によって、未来がどう変わるのかわからない。
 あれこれ考えて振る舞うよりも、傍観者としておとなしくしているのが、一番ましな結果につながるかもしれないのだ。
 急に不安が押し寄せた。動けない。

「矢淵さん、こっち上がっておいでー」

 呼ばれた方向を見上げると、女子の先輩たちがロフトの上から手を振っていた。

「下は機材でごたごたしてるし、男子が散らかすからね。巻き込まれないように荷物持っておいで」

 のろのろと階段を上っていくと、よく来たねー、と歓迎してもらえた。
 ロフトからは、一階のフロアが一望できた。

「よく見えますね」
「そうなのよー、高所恐怖症じゃなければいいよね。こういう家に住みたい。森の中の一軒家」

 先輩たちにならって寝袋を広げ、荷物の整理をしていると、

「あっ」

 がしゃん、と音がした。
 先輩たちがあわててロフトの端に寄り、階下を見下ろす。