シークレット・サマー ~この世界に君がいるから~

 衛藤先生によるオリエンテーションが行われている間、わたしはずっと壁にもたれたままでいた。
 隣では亜依がストレッチをしている。綺麗に開脚したポーズを、うらやましく見つめていると、誰かの視線を感じた。
 遥人だ。
 よこしまな目でわたしの亜依を見ないでよね。
 戒めるつもりでにらむと、ふいと視線を外す。

「ここで一度、みんなに聞いてみたいんだけど、みんなは何のために部活に入ったんでしょう?」

 先生がわたしたちを見回す。
 中一の子がもぞもぞとお尻を動かした。授業と同じように、当てられないよう身を小さく縮めている。

「六年間活動して、大学推薦をもらうため? 仲のいい子が一緒だから? 音楽が好きだから? 他にやりたいことがないから? それぞれ自分の心に問いかけてみてください」

 どの部を選ぶかによって、推薦の有利不利はないと聞いた。でもなるべく長く、ひとつの活動をやり抜いた方がいいらしい、とまことしやかな噂が流れていた。
 亜依の存在がなければ、わたしはここにいなかっただろう。それだけは確かだ。

「どんな理由でも、先生は否定しません。どうしてかというと、音楽、特にみんながこの部活でやろうとしているジャンルは、たったひとつの正解があるわけではないからです。ヒットした先駆者の真似をしても、同じように売れるとは限らない。楽器を扱うという点において基礎は必要だけれど、クラシックのように系統に沿って学ぶものでもありません。演奏するひとの数だけ正解が生まれると思っています」

 意外といいこと言うなあ。大人のくせに。
 わたしは感心した。
 でも周りの先輩や後輩たちには今一つぴんと来ていないみたいだ。