シークレット・サマー ~この世界に君がいるから~

「朝からあんなにすがすがしいランニング見せられたら、こっちの酸素も全部入れ替わる錯覚しちゃう。オリンピック見てるのと同じで、やる気が出て、自分にも何かできそうな気がする」
「何すんの」
「え?」
「何かできそうな気がすんだろ。何するわけ?」
「あ……う、ん……実際にはわたし、何もできないんだけどね」

 大きなため息が聞こえた。たっぷり浴槽一杯分くらいの肺活量がありそうだ。

「やる前からあきらめてんの?」
「……」

 きっと軽蔑された。
 行動が伴わないくせに偉そうにすんなよ、と言われるのを覚悟していたら、遥人は全然違うことを口にした。

「そんなに怖いか」
「え」
「失敗すんのが怖い?」

 尋ねられて、考える。
 失敗はしたくない。危ない橋は避けたい。
 一度失敗しても、もう一度やり直せばいい……そんな風に再チャレンジできるのはまれで。滅多になくて。
 現実は厳しい。
 一度失敗したら、二度目はない。教室内での立ち位置を決めるのも、中学受験も一度きりで。
 だからこの合宿は、わたしにとって特別な体験なのだ。
 終わった時間をもう一度やり直している。

「少なくとも玉川は『何かしたい』っていう自分の気持ちに誠実に動いてるように思える。多分、走りたいから走ってる。太鼓叩きたければ叩く。シンプルだ」