やけに暑いのは、布団が重いせいで。
 アラームが耳障りなのは、すぐにわたしが止めないから、徐々に音量が上がっているせいで。
 一日の始まりに、トライクロマティックの音楽を聴きたい。

 アラーム音の発信源である携帯を確認し、わたしは知る。
 古い機種、解像度の粗い液晶画面。この世界にはまだ、トライクロマティックが誕生していない。まばたきをひとつ、ふたつ。

 メールボックスには、亜依からのメッセージがあった。

『明日から合宿だね!  学校に泊まるなんてわくわくだー』

 ドアに制服がかかっている。紺色のプリーツスカートと白ブラウス。
 机の上には、ノートと学校指定の鞄。
 ベッドから降り立ち、鏡を見る。
 真っ黒な髪、若い身体。

 まただ。
 また十四歳の夏休みに戻ってきた。
 八年前、合宿に行かずに自宅で過ごした記憶と、一日目だけ参加した記憶。
 今回で三回目になる。
 これは夢かもしれない。あるいは、過去を上書きする特殊な旅なのかもしれない。
 家に閉じこもり、うずくまっていても同じように夏が過ぎるなら、外の世界を見てみたい。もう一度やり直したい。
 後悔を残して過ぎ去った数日間を再演するチャンスだ。
 わたしは決めた。
 次こそ後悔しないよう、この時間を丁寧に味わおう、と。