シークレット・サマー ~この世界に君がいるから~

 水をかき、伸ばす手の先にあるものは、きっと未来だ。
 水中をまっすぐ進む遥人を見ていると、まるでわたしにも輝かしい未来が待っているような錯覚を覚える。
 本当はもう終わってしまった未来。
 青春という名前の、限られた時間。
 十四歳の遥人には無限の可能性がある。これからどんな風にも生きていける。そう思うと、心臓がきゅっと絞られるような気がした。
 休みなく何往復か泳ぐと、気が済んだのか、遥人は水から上がった。
 ぽたぽたとしずくをこぼしながら、濡れた身体で近づいてくる。塩素が香った。

「いつの間に俺のこと、名前で呼ぶようになった?」
「え?」
「気安げに、遥人って」
「えっと、あの」

 やってしまった。
 中二のわたしは、初めて一緒のクラスになった遥人への遠慮が大き過ぎて、苗字で呼んでいたんだ。
 亜依が「ハル」と愛称で呼ぶものだから、次第にわたしも慣れて、名前で呼ぶようになったけれど――。
 すっかり忘れていた。
 この段階ではどうだったか、を都度意識しなければならない。
 過去の自分は自分だけど、別人みたいなものなのだから。ちゃんと演じきらないと、怪しまれる。

「ごめんね、宮野くん」

 遥人が鼻を鳴らした。

「さっきのでいい」
「さっきの?」
「名前呼び」