「お前だって、面接でパソコン使えるって嘘ついたくせに……」
「あーこれ、おいしい。未波、ほら、食べてみな」

 亜依がわたしの前に煮え立った小鍋を差し出す。
 明らかに話題を変えようとする彼女の唯一の弱点は、筋金入りの機械音痴。
 以前、研究室のマシンを壊したこともある。まぁ、おかしな操作をしただけじゃなくて、通常では考えられない力を加えたのかもしれない。

「あ、熱いから気をつけて」
「うん、おいしい。ビールに合うね」

 きのこのアヒージョに舌鼓を打つ。
 忘年会にはまだ早い時期だから、店はそれほど混んでいない。
 バル・ケタル。
 隠れ家と呼ぶほどではないけれど、知るひとぞ知る店という感じ。
 内装がそこそこおしゃれで、おつまみを始めとする料理はどれもおいしくて、おなかいっぱいになるまで飲み食いしてもそれほどお財布にダメージがない。しかも大学に近くて、わたしたち学生にとってはかなりありがたい。
 大人数の宴会は開催できないため、チェーン居酒屋のような喧噪とは無縁だ。
 客はカップルも多く、テーブルごとに会話を楽しんでいる。
 大声を出さなくても会話に支障がないのは、非常にポイントが高い。

「あ、これも頼もう。本日のおおすすめメニュー、イワシ団子のあんかけ」

 亜依がてきぱきと追加注文を決める。
 こういうとき、わたしと遥人は基本的にお任せというタイプだ。特に好きなものも嫌いなものもなく、目の前に来た料理に箸をつける。
 定番の大根ジャコサラダと合わせて、三品がテーブルに並んだ。
 どれも亜依の好きなものばかりだ。文句はない。
 わたしは両手でピッチャーを持ち、亜依と遥人のコップに注いだ。