ベッドから降り立ち、鏡を見る。
 そこに映った自分に、わたしは驚愕した。
 髪色が真っ黒だ。
 就職活動のときに黒くしたけれど、その後はまた明るく色を抜いたはず。
 明るい栗色が気に入っていたのに。
 いや、髪だけじゃない。皮膚の張りも、ささやかすぎる胸も、かつての自分そのものだった。
 若返った? 変な薬を飲まされた?
 まるで百面相のように、鏡に向かって表情を作る。
 頬の弾力。少し腫れぼったいまぶた。
 そのうち、最初のショックが薄れてきた。別人になったわけじゃないのだから当たり前か。何年か前には、毎日鏡越しに見ていた顔だ。

 机の上の鞄を開けた。
 入っている教科書は、どれも中二用。
 ペンケースもファイルも自分の持ち物で、なくしたと思っていた本も入っている。
 他にお気に入りのタオルハンカチと、卓球のラケットも。

「未波。お母さん、新幹線の時間だからそろそろ出るわよ」
「……はーい」
「朝ごはんは作ってあるから。洗い物はしておいてね」
「はーい」

 喉のあたりを指で押さえる。声は案外変わらない。少なくとも自分ではそう思う。
 合唱のパートはずっとアルトで、男の子と違って声変わりもなかったし。
 自分の声は好きじゃないけれど、見た目が変わってしまった今は、この声こそがわたしだという安心感も覚える。
 指で喉に触れたまま、あー、と声を出してみる。指先がびりびりしびれる。