シークレット・サマー ~この世界に君がいるから~

 亜依がドラムセットの奥から手を振る。
 遥人は一瞬、顔を上げただけで、クールな表情を崩さない。

「僕たちの歌を聴きにきてくれるみんなが、ここにいることを、本当に嬉しく思ってます。年末の忙しい時期に時間を作ってくれて、用事を片づけて集まってくれて、ありがとう」

 拍手と歓声が起こった。
 公式グッズである赤青黄のいずれかのリストバンドをつけた腕が、黒々とした頭の間から天井に向かって突き上げられる。

「僕たちの今年最後のライブです。同じ日は二度と来ない。本当に今日しかできないライブをお届けしたいと思います。多分、僕たち三人の力では、世界中の奴らを幸せにはできないけど、今夜ここに来てくれた君を幸せにする自信はあるから」

 してしてー、と悲鳴に近い歓声が上がった。
 本当にそうだ。わたしはこのバンドに幸せにしてもらっている。
 航はたっぷりと客席に目をやった後、さわやかな笑顔でまとめる。

「どうぞ最後まで楽しんでいってください」

 気合たっぷりといった感じのドラム連打に、ここしかありえないというタイミングでベースが割り込み、キーボードがふわりとかぶさる。三人の調和は、まるでステージ上から七色の帯が紡がれてゆくようで、『鶴の恩返し』みたいだなあと思った。
 昔話と違って、惜しげもなくからくりを見せてくれる。
 三人とも、脚も手も二本で、手の指は十本で、声はひとつずつ。改造人間じゃないのに、わたしと同じ人間なのに、こんな音を鳴らせるなんて魔法だ。

 手の届く範囲の幸せを保証すると控えめに航は言うけれど、本当は三人の音楽は三人の手の届かない遠くまで届いている。
 ライブに行くのはちょっと敷居が高い、自宅で聴いてくれるファンや、ファンを自称するほどではなくても、少し気になっている、気に入っているという程度のひとたち。
 音楽という糸でつながった、多くの縁。
 ちゃんと届いている。
 幸せにしてる。