シークレット・サマー ~この世界に君がいるから~

 商業的に大成功したとは言い難い、そこそこの活動。
 似たような青春系バンドは他にもいて、でもトライクロマティックはプロとして続けられている。どうにか生き残っている。
 三百人の箱をブッキングして、前売りでソールドアウトした。機材調整の名目で当日券を十枚追加し、これも売り切った。文句を言ったらバチが当たる。
 客層はわたしたちと同じ二十代を中心に、下はローティーン、上は親世代までいる。男女比率は半々。
 わたしは地下空間の入り口に戻り、客の入り具合を確かめた。

「間もなく開演となります。お早めにご入場ください」

 外で煙草を吸っている客に呼びかける。入退場の管理はライブハウスのスタッフがやってくれるけれど、予約したチケットを当日引き換える客の対応はわたしの仕事だった。
 最後のスモーカーが煙草を消した。

「扉閉めます」

 グッズ販売のスタッフに目くばせを送る。
 入場が済んだ旨、楽屋のメンバーに伝えると、いよいよだ。
 客電が落ちる。ざわめきがボリュームダウンして、一瞬の静寂の中、メンバーを呼ぶ声が方々から上がる。
 期待に満ちた空気が客席内でふくらむ感じ。
 ここに集まったみんながトライクロマティックを待ちわびている。同じ気持ち。愛。熱気。渇望。

 三人がステージに現れる。最初は亜依、次に遥人、そして航。
 それぞれのイメージカラーのライトが、三人を照らす。
 無言のまま演奏が始まる。
 『この夜が明けたら』という今のところ唯一のシングル曲。続けてアップテンポの『CHANCE』、どちらもリードボーカルは航だ。声の調子もいい。
 歌い終えた勢いのまま、航が客席に語りかける。

「こんばんは、トライクロマティックです」