「確か、未波ちゃんも四割くらいは書けたって言ってなかったっけ。寝不足なのはそのせいだよね。教授への報告があるから、って」
「あ、そうだったかな……」
「残り六割。がんばれ。きっと半分を越えたら見える景色が変わってくるよ」

 航らしいさわやかな応援を受け、わたしは大きく息を吸い込んだ。
 卒論を書き上げられるのか、卒業できるのかという自分の問題よりも、もっと気になることがある。


「ちょっとごめんね」

 ひとこと断り、携帯を出した。
 ブラウザを開き、トライクロマティックのサイトを呼び出す。
 心臓が痛くなるほど緊張した。最後の審判を受ける気分で、息を止めて、見つめる。
 そこに解散メッセージはなかった。
 成功したのだ。
 バンドを救えた。
 ほっとした。
 ほっとしすぎて、涙が出た。

「ちょ、未波、あんた泣き上戸だった?」
「そうかも」
「そうかも、ってさっきからそればっかり。ほんと、おかしいよ今日」
「じゃ、別のこと言う」
「何よ」
「ただいま」