シークレット・サマー ~この世界に君がいるから~

 居丈高な口ぶりと裏腹に、制服のズボンのポケットに指先だけ入れた手はぎこちなく開いたり閉じたりしている。
 大きなイベントステージも余裕たっぷりに楽しんでいた(実際にはこれから立つステージだけど)遥人が、わたしの答えを待って緊張している。嘘みたい。

 今日までの日々を思った。
 三回過去に跳び、トライクロマティックが解散しないよう、知恵を絞って立ち回った。
 亜依と航のわだかまりを解消し、遥人と衛藤先生の密会を防ぎ、いくつもの課題をクリアしてきた。
 目的がはっきりしていれば、取るべき行動は決まる。
 でも今、どう答えるのが正解か迷ってしまう。
 うん、とうなずけば、わたしは遥人のものになるのだろうか。
 友達ではなく、彼女というオンリーワンの席。
 他の人間を排して、二人で作る透明な繭。
 その変化は、わたしたちにどんな未来をもたらすんだろう。きっととてつもない幸せなのだろうけれど、失うものも多すぎて想像できない。

 もしわたしがトライクロマティックのただのファンだったとして、恋人がいるバンドマンを心から愛せるだろうか。
 自分が彼女になれる望みなどなくても、孤高でいてほしいと願うんじゃないだろうか。
 ファンはわがままだ。でもかけがえのない愛を注いでくれる。ファンの存在は、トライクロマティックの未来に必要だ。
 答えは、出た。

「駄目……そういう関係にはなれない」
「どうしてだよ。他に好きな奴がいるわけ?」
「いないけど、そういう特別な関係になったら駄目なの、わたしたちは」
「つまんねえこと言うなよ」

 甘美な誘惑に気持ちが揺れた。
 無表情で、口を開けば偉そうで、初対面のひとには怖がられる。誤解されることも多いけれど、遥人の生き方はとてもまっすぐだ。音楽に真面目で、自分に厳しい。わたしは、遥人のいいところをたくさん知っている。
 つき合えば、きっと大切にしてもらえるだろう。