シークレット・サマー ~この世界に君がいるから~

 先生がため息をついた。
 ここは素直に、「家に戻ります」と言った方が先生を安心させられたのだろうと思う。
 でも、それでは意味がない。
 わたしは未来を変えたい。

「先生」
「なあに?」
「先生は、芸術への評価に、私情をはさんだりしないって信じてます」
「……どういうこと?」
「すみません、ちゃんと話せないんですが、これから先も信じさせてください」

 先生は黙ってじっとわたしを見た。言葉の奥の真意を確かめるように。

「矢淵さん、わたしが生徒の誰かをえこひいきしているとか勘違いしてる?」
「勘違い……そうかもしれません」
「そうさせてしまう言動があったなら謝るわ。でも、事実じゃないから。あ、井上先生が戻っていらしたみたい」

 不自然に会話を切り上げ、衛藤先生が退室する。
 保健室の扉を開けたままで、教師二人が何かやり取りをするのを、わたしはぼんやり聞いていた。