「……きなこと、やめたら、っそ、んなの……っ」
「ほら、ふらふらしないで。おぶってこうか?」
「いい。自分で……歩ける」
「送ってくよ。タクシーにする? つかまって」
「いいってば!」

 わたしは意地を張って、亜依の申し出を断った。
 今までに何度も具合が悪くなっては、亜依におんぶしてもらったのを思い出す。
 鍛えられた足腰、わたしよりも広い背中。
 だけど、亜依はもうあのときの亜依じゃない。
 変わってしまった亜依に頼ろうなんて思わない。
 点滅する歩行者信号をにらんで、わたしは横断歩道を渡る。
 急ぎ足のつもりが、水中を歩いているような感覚で、なかなか前に進めない。
 それでもどうにか、もう少しで通りを渡り終える、そのとき。
 脚がもつれた。
 興奮したからか、さらにお酒が回って、うまくバランスを取れない。
 あー、まずいな、これって倒れる予兆だ。
 嫌な感じのブレーキ音が聞こえて、ぎゅっと目を閉じる。
 空に放り投げられるような感覚と共に、わたしは意識を手放した。