シークレット・サマー ~この世界に君がいるから~

 午後三時になる少し前、校舎でセッションをしていた三人が部室に戻ってきた。

「食欲や睡眠欲は本能じゃん。おいしいものを腹いっぱい食べたり、好きなだけ眠るのが気持ちいいのは当然じゃん?」
「うん、明日のことを考えずにたっぷり眠るのって最高だよね」

 航の言葉に、亜依が相づちを打つ。

「でも音楽を聴いたり、奏でる気持ちよさって何なんだろうな」
「誰かと同じ感動を分かち合えるからかも」
「自分一人で聴いてても、いい音楽はいいじゃん」
「自転車に乗って新しい景色を見る感じ?」
「見えるのがいつもと同じ景色でも気持ちいいんだよ。おいら、好きな曲なら何度リピートしてもお代わりできるぜ。つまり音楽って気持ちがいいものなんだよ」
「そんな本能あるのかな。空気の揺らぎを感じ取る力?」
「そういえば植物にモーツァルト聴かせるとよく育つって聞いたことある」

 わたしは一階に降りた。
 汗と筆圧で波打ったルーズリーフを、航に渡す。

「未波ちゃん……」
「歌詞、つけてみた」
「すっげえ!」

 航は興奮した様子で、防音ブースの扉を押した。
 ドラムスティックを手に、亜依が続く。
 わたしが入室をためらっていると、遥人に背中を叩かれた。

「入れよ。つかえてるぞ」