シークレット・サマー ~この世界に君がいるから~

 机の中を探ると、指先がルーズリーフの袋に触れた。
 一枚取り出す。
 まさか歌詞を書くはめになるなんて思っていなかったから、筆記具も部室に置いたままだ。
 部室に戻り、先輩たちが集まっている横を通って、ロフトに上がる。
 ボールペンと紙を用意して、携帯にイヤホンを接続し、航が入れてくれたデータを開いた。
 目を閉じる。
 
 生まれたばかりのメロディが流れてくる。
 夏の教室の空気も、音と一緒に閉じ込められていた。
 わたしはペンを走らせる。

(夏が始まるよ)

 字がふにゃっとゆがんだけれど、気にしない。自分が読めればいい。

(熱い日々を終わりにしないための闘い)
(知っているのはわたしだけなの)

 違うな。
 自分が特別みたいな言い方は、彼らに似合わない。
「わたしだけ」を二重線で消して、「大切なもの」と書き換えた。
「知っている」を消して、「守りたい」と書き足す。
 音の数を確かめながら、最初から聴き直す。

 歌詞をつけようと試みてすぐ、わたしは自分の才能のなさを思い知らされた。
 日頃、会話では不自由なく使っているつもりの日本語も、いざ作品にしようとすると、途端に詰まってしまう。
 喋るのと書くのとは違う。そして歌うのは、もっと違う。
 他人に伝わるように、自分の想いを綴るのはとても恥ずかしかった。水着になるよりもあらわになるものが多い。だからつい隠してしまう。
 友達が大切で、仲間が大好きで、彼らを失いたくない気持ちは本物なのに、気持ちをそのまま歌に乗せられない。
 泳ぎ方を知らないまま海に飛び込んだような気分だった。
 音に溺れる。言葉をつかもうとしても、沈んでゆく。