シークレット・サマー ~この世界に君がいるから~

「Aメロ、Bメロ、サビと入ってるからさ。聴いて、もし何か浮かんだら書いてみてよ」
「約束は……できないけど」
「うん。無理矢理書かせてもいいものが出てくるわけもないしね」

 データを渡して用事が済んだのかと思いきや、航は学校の外までついてきた。

「おいらも昼飯買おうと思って」
「……そう」
「青春だよなー。夏休みの合宿、ぶつかり合う意見、二度と戻らない青春の日々!」

 航は、時間が一定方向に流れて、決して戻らないと信じている。
 時間遡行の認識があるのは、わたしだけだ。
 他のみんなは自分たちが十四歳であることを疑いもしない。
 これは初めての中二の夏で、一度きりの経験だと思って生きているに違いない。
 でも実際には、わたしのやり直しに引きずられて、八年前の経験を上書きされているのだ。
 わたしが最後に過ごした夏が有効な記憶になる。
 もし、消えてしまった全てのやり直しの記憶を掘り起こせば、前の過去の方がよかった、こっちの部分はこのときの方が幸せだった、と注文をつけて選びたがるメンバーがいるかもしれない。ううん、それだけじゃない。うちのバンド以外にも、わたしのタイムリープの影響が出ているかもしれないのだ。
 ちくり、と罪悪感が胸を刺す。
 わたしだって、こんなこと何度も繰り返したくない。
 もし十回も二十回も同じ出来事を味わうことになったら、嫌になって、投げ出したくなるとも限らない。
 とにかくこの夏を越えたい。
 トライクロマティックの解散を阻止するという、自分に課した使命を果たすのだ。