「教えて。亜依は、解散したいの? したくないの?」
「そんなのひとことじゃ説明できない」
「解散したくないんでしょ? 本音はそうなんでしょ?」
「ひとの気持ちを勝手に決めないでよ」
「変だよ……解散したくないのに解散するなんて、変。もっとちゃんと話し合って」

 初めてのレコーディング現場で目を輝かせていたメンバーをよく憶えている。
 本当に嬉しそうだった。
 アニメ番組のタイアップになった曲はシングルカットされて、BS放送とはいえテレビ番組に呼ばれて演奏する機会もあり、バンドの知名度を上げてくれた。
 音作りのときは妥協せず、意見をぶつけ合う場面も多い彼らだけれど、後を引く喧嘩にまで発展したのを見たことはない。

「夫婦が離婚するのだって、簡単じゃないんだよ。両方ともに別れる意思がなければ、成立しないもん……。三人が、三人とも別れたいって思ってるんじゃないなら、そんな解散、無効なんだから……」

 もちろん食べるための手段は必要だ。
 学生の間は親に出してもらっていた生活費も、社会人になったら自分たちで稼ぐ約束になっているし。
 だからこそ、それぞれが学業とバンド活動の合間に就職活動をしたはず。
 これからは学生バンドではなく社会人バンドとしてやっていくつもりじゃなかったの?
 やめてどうするの?
 いつの間にか、頭の中の言葉と、唇が発する言葉がごちゃ混ぜになって、わたしは虚空に向かって話し続けていた。