面倒くさそうにテーブルの上の会計伝票を取ると、レジに向かう。
 その瞬間、亜依がわたしとの関係も断ち切ろうとしているんじゃないかと思えた。
 誰より頼りにしていた親友が、どこかへ行ってしまう。
 大切な存在が、去ってゆく。
 わたしはあわてて席を立ち、後を追った。目の前がぐるぐる渦を巻くので、壁伝いに歩いた。
 亜依に追いついた。遥人が置いていったお金で支払いを済ませると、レシートとお釣りを財布にしまったところだった。
 ありがとうございました、と店員に送り出される。

 外は寒かった。
 でも、顔も手も熱かった。身体中全部が熱を発している。

「未波、なんであんたが泣いてんのよ」

 そう言われて気づく。泣いている自分に。
 心が悲鳴を上げるっていう表現、こういうときなら使ってもいいはず。
 ずっと大切で、これからも続くと信じていたものがいきなり壊れるって言われたら、どうすればいいかわからなくなる。
 現実を受け入れたくなくて、どうにか覆したくて。
 こぼれた涙が頬を伝う。渇いた風に吹かれて、涙の筋を意識させる。冷たさがむしろ心地いい。

「だって……」
「うちは泣けないよ。こんなときに、泣けない」
「トライクロマティックは亜依にとって大切な居場所でしょ? 失いたくないんじゃないの?」
「……」

 強くわたしをにらみ、それでも亜依は泣かない。
 中学に入ってから、今までずっと一緒にいたけれど、そういえば亜依が泣いているところを見たことがない。
 いつもわたしが先に泣くから、亜依は泣きたくても涙をこらえる癖がついたのかもしれない。