シークレット・サマー ~この世界に君がいるから~

「当たらなかったんだからいいよね」
「幸いなことに、な。……ってそうじゃなくて」
「わたしも幸いにリップ折れてなかった、よかった」
「ったく、そのガサツなところ直さないと、どんなに化粧しても無駄だぞ」
「あんたに言われなくても気をつけるわよ、強運不死身男」

 普段はおっとりしている部長が、同学年の先輩相手では口汚くなる。
 何度ループしても、きっとこの二人の関係は変わらないのだろう。
 遠慮のないやり取りを聞いていたかったし、遥人のそばにいたかったけれど、この後、わたしは、亜依と航の口論をいさめなくてはいけない。
 未来にしこりを残さないため。
 荷物を部室に残したまま、外に出た。
 夏の日差しが降り注ぐ前庭を横切り、中学校校舎へ向かう。
 建物に入ると、声が聞こえてきた。他の物音がない分、航の声だけが響く。

「あいつは好きで厳しい家に生まれてきたわけじゃねえ。今回だって、軽音の合宿って正直に言ったら許してもらえねーから、勉強合宿だって嘘ついて、参加同意書にこっそり印鑑押して来てるんだよ。切実な気持ちで音楽やってんだよ」

 亜依が言い返す。

「だから同情しろとでも? 甘えんじゃないよ。本当に自分がやりたいことなら、親くらい説得してくればいい。男ならこそこそしないで、堂々としろっつーの」