シークレット・サマー ~この世界に君がいるから~

「まあまあ」ととりなすように、航が言った。

「未波ちゃんには本当に感謝してるよ。今まで本当にお世話になった。ありがとう。ラストライブを最高の夜にするために、最後にもうひと働き、頼むな」

 両手を合わせる航には悪いけれど、わたしはこの現実を受け入れたくはなかった。
 感謝されても嬉しくない。満たされない。
 わたしが欲しいのは、ありがとうなんて言葉じゃない。
 大晦日を最高の夜にするんじゃなくて、どんな姿でも、たとえみっともなくても、ずっと三人でいてほしい。
 遥人が解散を選んだとしても、わたしはあらがう。

「やり直すから」
「え?」

 三人がわたしを見る。

「トライクロマティックは解散させない」
「……」
「無理だと思ってるでしょう。なんの権限もないわたしが、酔っぱらって大きなことを言ってるだけだって、笑ってもいい」
「笑わないけど、今更、時間は巻き戻せないよ」

 あわれむように言う航に、わたしは答える。
 巻き戻せるよ、と。

 十四歳の夏を一枚の黒板にたとえるなら、わたしが時間をループする度に、書いては消し、また書いては消し、消したところにまた書く、それを繰り返しているようなものだ。
 最も新しく書かれた三日間のできごとが、八年後の世界に影響する。
 SFのような法則が、わたしたちを支配している。
 運命に試されている。こんなちっぽけなわたしが。
 意地悪な運命をねじ伏せるには、小さな失敗も許されない。あの夏に散りばめられた無数の分岐で、それぞれ最上の選択を選び取ったら、きっと解散を回避できる。