シークレット・サマー ~この世界に君がいるから~

 合宿の夜、衛藤先生と遥人がキスをしているのを見ても、わたしは何もしなかった。
 せつなくて、嫌で、苦しかったけれど、見なかったふりをした。
 真実を知るのが怖かった。
 遥人が先生と待ち合わせをした理由。部室を抜け出し、先生と抱き合っているように見えたけれど、見間違えではなかったのか。
 いつから、どういう関係だったのか。
 遥人は何を考えているのか。
 わからないことだらけで、でも、わからないままにしておく方がいいと思った。
 これまで通り友達でいるために、目をつぶって眠ることにした。
 そして合宿三日目を迎えることなく、八年後に戻ってきてしまったわけだけれど。
 あのときのわたしの臆病な選択が、その後の未来を決めたんだ。

 前に航と親しく話した合宿の後、わたしは航に想いを寄せられた。
 でも今回戻ってきた後は、航との関係は友人以上になっていない。
 その代わりに、衛藤先生がトライクロマティックに与える影響が増した。
 遥人はバンドに見切りをつけ、衛藤先生を信じて、新しい道を選ぼうとしている。
 もどかしかった。
 せめて八年前と今の間のどこかに挽回のチャンスがあれば、遥人の気持ちをバンドに取り戻せたかもしれないのに。

「わかった。ソロでも俳優でもご自由にどうぞ。ただし、わたしは応援しないから」

 思いきり嫌な女になって、石をぶつけたつもりが、遥人は蚊が止まったほどにも感じていないようだった。