シークレット・サマー ~この世界に君がいるから~

「遅くなった」

 遥人の服装を見て、胸が騒いだ。
 スーツじゃない。紫色のTシャツに細身の黒いデニム。ごつい黒革のブーツ。
 色合いは暗いけれど、華がある。今からステージに立ってもおかしくない格好だ。
 ただなんというか、遥人らしくない。

「打ち合わせどうだった?」
「滞りなく済んだ。食事誘われたけど、お前らと食うって言って抜けてきた」
「友情を優先してくれるなんて嬉しいねえ」
「道迷わなかった?」

 亜依が訊ねる。
 途端に遥人は無表情から、明らかにむすっとした顔になり、椅子を引いた。

「俺だって進歩してる」
「それはそれは。十分くらい迷った?」
「五分」
「道案内アプリもハルほどの重度の方向音痴ユーザーに利用される想定はしてないだろうからね」
「機械音痴に言われたくない」

 亜依が肩をすくめ、店員を呼んだ。
 持ってこさせた新しいコップに、ピッチャーからビールを注ぐ。
 遥人はコップをつかむと、ひと息に飲み干す。

「あの」

 不機嫌そうな遥人に話しかけるのには勇気が要った。
 優柔不断で遠慮がちなわたしは、会話に割って入るのが苦手だ。
 でも今を逃したらいけない、そんな気がした。