シークレット・サマー ~この世界に君がいるから~

 元の席に戻った遥人はベースを鳴らし、五線紙にシャーペンを走らせている。
 扇風機が首を振り、ぬるい空気をかき回す。
 半袖が風をはらんでふくらむ。
 作曲の邪魔をしないよう、わたしは気配を殺し、肘の骨が出た腕を見ていた。
 遥人の満足ゆく曲ができるよう祈りながら、ただ待つしかできない。
 図書室から持ってきた(航に貸出手続きを頼んでもよかったのだけど、いつまでこの時代にいるかわからないから、すぐに返すつもりで無断持ち出しをした)デザインの本をめくり、時間をつぶす。
 色には目的があって、説明や強調に向く機能的な色と、一目で印象を左右する情緒的な色に分かれるらしい。機能的な色は左脳を刺激し、情緒的な色は右脳を刺激すると書いてある。
 すっきり澄んだ色と、ぼやけてにじんだり、濁っている色――そんな簡単な分類でもなさそうだ。美術鑑賞は嫌いじゃないし、見ているのは楽しいけれど、よくわからない。

「なあ」

 遥人がベースをかついだまま、わたしに話しかけてきた。

「俺のことそんなに怖いか」
「え……」