シークレット・サマー ~この世界に君がいるから~

 三枚目のアルバム制作会議は延期になっていたけれど、それはみんなが忙しかったからだ。
 卒論の追い込み時期に入るまでは月に一回、単独の定期ライブ開催と、不定期で対バンイベントへの参加を続けていたトライクロマティック。
 活動は順調だった。
 ライブをやればオーディエンスはちゃんと集まってくれるし、毎回差し入れを持ってくる常連ファンもいる。
 趣味が入浴と公言している亜依は、男性ファンと女性ファン両方から、いろんな入浴剤をもらって喜んでいる。
 それだけで食べていくには厳しいけれど、彼らにとって音楽とは生活の一部、たとえるなら栄養で空気で筋肉だ。
 ずっと続いていくはずで。
 就職するからといって、彼らがバンドを辞めるなんて考えられない。

 そのとき、わたしの脳裏にある言葉が浮かんだ。エイプリル・フール。
 そうだ、だまされるものか。
 画面のどこかをタップしたら、
「なんちゃって~! 解散なんて嘘だよ~ん、これからもよろしく」と、航が描くイラストが笑ってくれる。
 おそらくこの文章は誰かのいたずらだ。
 一ヶ月ほど早いけれど、『12月のエイプリル・フール』という往年の名曲だってある。
 悪い冗談に違いない。
 そう願いながら、どれだけ画面をつついても、スクロールしても、解散メッセージは消えない。一文字も変わらずそこにある。
 わたしは亜依にすがった。