シークレット・サマー ~この世界に君がいるから~

 校舎を出て、部室に向かうとき、空はもう赤く染まり始めていた。
 空気はまだ熱く、蝉もうるさいくらい鳴き続けている。
 でもどこか物悲しい。心細くて、少し怖い。
 他に人影がないせいか、まるで人類が絶滅した世界で四人だけが生き延び、この学校に取り残されたんじゃないかと想像してしまう。

「未波ちゃん、どうした?」
「空がすごいから、思わず足が止まっちゃった」
「センチメンタルになってる? おいらがなぐさめてあげようか?」
「未波、この馬鹿は放っておいていいから」
「おーい……二言目には『馬鹿』言うのやめない?」

 言い知れない不安を吹き飛ばす、航と亜依のやり取りにわたしは笑った。

「この空間にいることができて幸せ」
「大げさだなあ、未波ちゃんは」
「実は感情が豊かなんだよね、未波は」

 航と亜依がそれぞれのやり方でわたしを励まそうとしてくれる。
 遥人は余計な口を利かず、じっと空を見上げていた。まだ少年っぽさが残る横顔のシルエットが綺麗だった。
 過去に戻るという不思議な現象が起こって、わたしは彼らと同じ空の下にいる。
 八年後にバンドが直面する危機を、今は忘れていたい。
 元の時間に戻ったとき、「解散」という二文字が消え失せていたらいいのに。