シークレット・サマー ~この世界に君がいるから~

 おかしいのは、そこに見慣れない文字があること。
 昨日まではなかった文章が添えられていた。
 センタリングされた文字はこう読めた。

   トライクロマティックは解散します。
   今まで応援ありがとうございました。

 三人がばらばらになる?
 バンド活動はおしまいになるの?

「……どういうこと?」

 どうして解散しなくちゃいけないの?
 事情が呑み込めない。というか、何も知らない。
 マネージャー的立場なのに理由も聞かされず、相談もなく解散なんてありえない。
 わたしは呆然としてしまった。

「これで払っておいて」
「……遥人」
「もう少し踏ん張りたかったけどな」

 つぶやきと共に、遥人はテーブルに一万円札を二枚置いた。ブリーフケースを持って立ち上がる。

「待って」

 呼びかけたけれど、その背中は振り返らない。
 バンドマンではなく、完全にビジネスマンの背中だった。

 視界の隅で、亜依がお金を回収するのが見えた。
 信じられない気持ちのまま、わたしはビールをあおる。

「こら未波、一気飲みしたら駄目だって」