「ユカ…、やっぱり、今日一緒にカラオケ行ってもいい?」
放課後、急いで帰ろうとしていたユカの腕を掴んだ。
「え?うん、全然いいに決まってるじゃん。」
一瞬怪訝な顔で私を見たもののすぐにとても嬉しそうな笑顔で答えてくれた。
あれから、何度もカラオケに誘ってくれているユカの気持ちに応えたい気持ちと、もう1つ私に気持ちの進展があった。
「わぁー、良夢が来てくれるなんて本当に嬉しい!久々だね。向こうで中学の時一緒だった茜も合流するけど大丈夫だよね?」
茜って誰?って思ったけど、頷いた。
今日新しい一歩を踏み出せたことで、今までと考えが変わってきた。
ここにいる私も私として生きてきた訳で、友達関係とか日々の生活を大切にしてたはずだと冷静に思えるようになった。
自分と同じような悩みだってあったかもしれない、自分と同じように好きな人がいたかもしれない。
そう思うと、私のせいでその生活を壊してしまうのは絶対にしてはいけないことだと気付いた。
どうして私がこの世界にいるのかまだ分からないけど、今、私がやるべきことはここの世界の私の生活を守ることだと思う。

あれ?また誰かの視線を感じる。

「良夢?大丈夫?」
ユカが心配そうに私の前で自分の手をパタパタさせた。
「うん。…。ごめん。」
結局その視線の正体はつかめないまま、下駄箱でローファーに履き替える。
あ…。
翔太…じゃなかったショウタくんがいた。

ちょうど、ショウタくんも帰るとこだったらしく何人かの友達と歩いていた。
ショウタくんの隣には可愛い感じの女の子もいて、それを見た途端複雑な気持ちになる。

本当の世界の翔太もすごくモテる男の子だったから、両想いだと分かってからも、翔太の気持ちがいつか変わってしまうのではないかと毎日毎日不安で仕方無かったことを思い出した。

ショウタくんがちらりとこっちを見て会釈してくれた。
あの笑顔も翔太そのものなのにな…。

「良夢って、井川くんと知り合いだったの?」
それを見ていたユカが驚いたように、言ってきた。
「え?ユカ、ショウタくん知ってるの?」
「知ってるも何も、井川ショウタって言ったらめちゃ人気ある子だよ。バスケ部の中でもめちゃ目立ってるし。」
バスケ部なんだー…。
翔太も中学時代はバスケ部だったけど、高校に入ってからは帰宅部になってしまった。

『翔太、何でバスケ部入らなかったの?』
高校に入ってすぐに聞いてみたことがあった。
そしたら、
『だって、オレが部活入ったら誰が架菜を家まで送り届けるんだよ。』
本当だとは思ってなかったけど、少し自惚れてもいいかな?と思った。
私は翔太の隣をいつまでもこうやって歩いていたかったから。
翔太の隣にずっといたかったから。

「いつの間に知り合ってたの?めちゃ羨ましいんだけど。」
ユカの驚愕っぷりを見るからして、ここの世界の私はやっぱり彼とは全く接点が無かったのだと言うことがはっきり分かった。

そんな中で、私がショウタくんと接点を持つと言うことはここにいる私の生活を壊してしまうのではないかと一種不安になった。

音無良夢、貴女は誰か好きな人いたのでしょうか?
その好きな人との夢を見ていたのでしょうか?