「やぁ。忙しいとこごめんネ」
応接室にはジン一人だけだった。
結斗の視線が無意識に
『彼女』を探していた事に気付いたジンが
にやっと口の端を釣り上げて言った。
「リアならホテルで留守番ダ。
だって連れてきたら色々困るダロ?
気を使ってやったんだゼ」
「…それはどうも」
結斗が向かいのソファに座る。
一呼吸置いて、彼は顔を上げ、ジンを見た。
「せっかくだけど、君の交渉には乗れないよ。
悪いけど帰ってくれないか?」
「ユイ、俺が引き下がるとでも思ッテル?
君が承認してくれナイなら
無理矢理にでも「そうする」までサ」
ジンがパチンと指を鳴らすと
横に置いてあった
大きなスーツケースのロックがガチャ、っと外れた。
「??!!」
唖然とする結斗の前に、現れた「それ」は
本当に美しい姿を保っていた。
「なるほど…それが君の能力って事だね」
「そう。俺の「玩具」だヨ。
俺に従ってくれる「奴隷」でもアルケド。
丸腰状態の今のユイに、俺を止める事は出来るカナ?」
「??!!」
嫌な予感がした。
ものすごく嫌な予感だ。
それと同時、両親とアリアの存在が気にかかった。
結斗は勢い良く部屋を出た。
早く。
早く両親の部屋へ…!
「ふっ…無駄だよユイ…」
走り去っていく結斗を追いかけることなく
ジンは妖しく微笑んでいた。

