きみを見ていた

夏休みが始まっても、毎日学校へ通う日々。

午前中は夏期講習。午後からは文化祭に向けての練習。

ぜんぜんイヤじゃない。

だんぜん楽しい!


「メイちゃん、活き活きしてる!」

ランチタイムに登校している学生の為に場所を開放している学食で真里菜ちゃんが私の顔をのぞきながら言った。

「メイちゃんがあんなに歌がうまかったなんて驚いたわ

歌い始めた途端、誰よりも輝いてて

本当に歌ってる時のメイちゃんは素敵!私、ファンになっちゃった

・・あ、トランペットのB君が来た!ほら、こっちチラチラ見てるでしょ?

ふふっ、オーケストラにもメイちゃんのファンが多いのよ!

親友としても鼻が高いわ」


「や、やめてよ真里菜ちゃん

私は歌ってる時だけで、普段はこんなんなんだから・・」


「こんなんってなによ~

メイちゃんは絶対歌手になるべきよ!

メイちゃんの歌声、きっと多くの人たちを幸せにするわ」


「ちょ、真里菜ちゃんたら大げさなんだから」

「そんなことないわ!ふふっ

あ、勇太君だ」


「よっこらしょっと!」


「勇太君もこれから部活?

って、料理研究部って夏休みも活動すんの?」



「いや、今日から俺オケ部なんだ」


「ええっ?そうなの??なんで?」


「へへ、磐座っちに誘われてよ~

打楽器足りねーから来いって

ま、料理研究部辞める訳じゃないけど
部長の許可もらってるし、じゅうぶん両立できるからな」



「そういえば勇太君、小学校の頃から鼓笛隊やってたもんね」


「そ。俺様のリズム感の良さを見抜くなんて、さすが磐座っち。

ところで、合宿の話聞いてるか?」



「うん、夏期講習終った来週から一週間でしょ?

場所は軽井沢の方だって聞いてるけど」



「そ。俺んちのじいちゃんが持ってる高原の別荘地抑えといたからよ

じいちゃん、俺が参加するオーケストラの練習場所探してるって言ったら即手配してくれてさ

吉田も山田も来るだろ?」



「私は行くけど、メイちゃんは?」


「うん・・まだママに話してなくて」



「それにしても、山田の母ちゃん、よく夏休みの部活許してくれてるなぁ~

山田おまえ、歌すごくうまいんだって?」



「そうよ~、勇太君びっくりするわよ!」



「母ちゃんも応援してくれてるんだな」


「それが、しぶしぶ部活は了承してるって感じで、文化祭で役がついてダンスのレッスンまでしてるとは思ってないの。

あくまでも、進学の為の部活としか認めてなくて

合宿まで許してくれるとはとても思えない」



「メイちゃんと一緒に合宿行きたいわ・・」


「そうだよ、一緒に行こうぜ

どうにか母ちゃん説得してよ~」



「うん・・」


真里菜ちゃん、勇太君ごめんね。

うん、と返事はしたものの、おそらくママには話さない。

合宿は参加しないつもり。

これ以上、ママに心配かけたくないの。

ママは、私が歌うより、
何年かけても勉強してお医者さんになる方がうれしいんだもん。

ママの期待に応えてあげたいの。

ママの幸せを守ってあげたいの。

これまで離れて暮らしてたぶん、
娘として、やれることはやってあげたいの。