きみを見ていた

「こら、山田!
歌い出しわからんか?もう一回!」

磐座っちが何か言ってる。

どうしよう・・

またイントロが流れる・・けど・・

どうしよう。


あっ、磐座っちがこれ見よがしに大きなジェスチャーでオケの演奏辞めさせてる。

「ストーップストーップ!!
くらぁ、山田!おまえ・・」

そっと肩を抱かれゆっくりとターンされると瀬戸先輩の優しい眼が私を見つめた。

先輩は背の低い私に合わせて腰を少し屈めてる。

そうだ、これは先輩のオーディションでもあったんだ。

私ったら、自分のことばっかり。

ごめんなさい、先輩。

次はちゃんと歌わなきゃ。

「俺のことはいいから」

えっ?

うつむいてた顔を上げた。

「俺の為に歌わなきゃなんて思わないでくれよ。
もしいやなら、このオーディションも受けない様俺から先生に話すから。

ただ・・俺は山田と歌いたい。

みんなの前で。


学校で、こんな風に歌うなんて実は考えたことなかったんだ。

コーラス部の主将にあるまじき発言だけど。

でも、今はどうしようもなく歌いたいんだ、みんなの前で。


山田、おまえと。

俺のささやかな願い」


私と歌うことが、先輩のささやかな願い??
どうして?

「どうしてって顔してるね。

それは」


先輩はそっと私の手を包んで

「俺の願いが叶ったらその秘密を明かすよ」


先輩の笑顔があまりにも爽やかだったから、つられて笑っちゃった。

なんか、変な気分。

私が、誰かの、ささやかな願いの対象になってるなんて。

ママ、ごめん。

一回だけ歌わせて。

ううん、歌いたい!