きみを見ていた

「あ、瀬戸先輩!」

「おお!やっぱり舞台映えするわね。

それに引き替え、何あの子。

ぷっ、緊張しすぎて手と足が一緒に出てる。

あんなんで歌えんのかしら」


「誰あの子?ソプラノにあんな子いたっけ?」


「うちの部じゃなくて、コーラス部の二年よ。

ほら、山田総合病院の末っ子の。

親が再婚して高校からうちの学校なの」


「ああ、あの子だったの。

それにしてもパッとしないわねぇ~。

背も小っちゃいし、あんなに細くて、髪もボッサで。

歌、歌えんのかしら?

ジャンケンとはいえ、瀬戸先輩とコンビだなんて。

うらやましいけど、あまりに比べられちゃってかわいそう」


「しっ、始まるわよ」

「そこのメゾ!静かに」

「ほら、バリトンの先輩に怒られちゃったじゃない」



「・・・ん?

どうして歌わないんだろ、あの子」


「磐座先生が一生懸命合図出してるのに、何やってんの?

あれ?口は動かし始めたけど、今度は声が出てない??」


「演奏が止まったわ」


「わぁ~、磐座先生が大声でなんか怒鳴ってるんですけど。

あらら。下向いちゃって、もしかして泣いちゃった?」


「あ!瀬戸先輩が手握った!

励ましてるのね。やさしい~

うっ、見つめ合ってる!」


「どうやらまた歌うみたいね。

瀬戸先輩が磐座先生にお願いしてるわ」


「お、指揮再開するわ」