きみを見ていた

「ねぇ、おっどろいた!瀬戸先輩、超久しぶりじゃない?」

「ね!

久しぶりに見てもやっぱり男前だったわ~

瀬戸先輩、イケメンで有名でさぁ~、中学時代すっごくあこがれてたの。

サッカー部のキャプテンでエースストライカー。


中学女子ばかりか高校の先輩たちにもファンがいるくらいだったもん。

高校でもサッカーつづけるもんだと思ってた」


「私も。

ところが、何を思ったか急にコーラス部立ち上げてサッカー辞めちゃって!

そっから急に影薄くなっちゃったよね~。

まぁ、うちの学校自体、芸術関係の部活は弱いから。

ミュージカル部もそんなに他人の部の事言えないけど、それでも文化祭では発表するとか細々と活動はしてるもんね」


「にしても、やっぱ男前だったわ!

背も高くてスタイル良いし。

ミュージカル部の男子には悪いけど、比べ物にならんわ。

磐座先生とはいい勝負かもね」


「言えてる。

でも、それもこれも“コーラス部でなければ”って前提つき。

ああ、瀬戸先輩の高校三年間が悔やまれる~

人って、その人自体もそうだけど置かれる環境って大事よね」



「言えてる、それ」


「ねぇねぇ、瀬戸先輩って歌上手いの?」

「・・・」「・・・」

「う~ん、聞いたことないや」

「私も」

「瀬戸先輩が中学三年の時、一時期怪我してサッカー練習できなかったんだって。

その時に頭数そろえるために合唱でコンクールに出させられたって聞いたけど。

1人で歌ってどうなのかはわからないなぁ~」


「月に何度か外でレッスン受けてるみたいな話は、聞いたことがあるようなないような」

「瀬戸先輩のオペラかぁ~。

ちょっと楽しみかも。

今回の曲目で歌が上手ければ、うちのミュージカル部の先輩たちよりむしろ瀬戸先輩の方があってるかも・・・」


「ちょっと、滅多な事言わないの!

部の人が聞いてたらどうするの。

それはそうと、早く楽譜読みしなきゃ。

ね、外のあのベンチで一緒に合わせない?」


「そうしましょう」「うん」


そう言うが早いか、ミュージカル部の2年生たちは講堂のロビーから重いガラス扉を開け外へ出て行った。



「俺って、そういう風に見られてたんだなぁ」

彼女らが話していた踊り場のすぐ上の階段で頬杖を突きながら座り、上目づかいでミュージカル部主将の椎名智子を見た。

「クックッ・・

まったくあの子達ったら。

まぁ、歯に衣着せぬトークではあったけど、ウソや過剰な表現はなかったわね。

コーラス部の事も身内のミュージカル部の事も冷静に分析してたじゃない?」


まだ笑ってる。

まったく、見た目のクールさとは違い相変わらずの笑い上戸だ。

「でも、私嬉しいわ」

そう言うと椎名はしゃがみ、間近で俺を見た。

「こうして、また一緒の舞台に立てる日が来るなんて。

中三時の合唱コンクール以来ね」


「ああ、そうだな」


「何度ミュージカル部に誘っても頑として来てくれないし、文化祭で合同で発表しようって言っても聞く耳持ってくれなかったもんね」


「ミュージカル部の足引っ張るだけだったからな」

「今は?」

「そうだな・・まぁ、磐座先生がせっかく与えてくれた機会だし、一生懸命やるだけだよ。

気がつけば高校最後の文化祭だしな。

さて、俺も楽譜読まないと」


「じゃあ瀬戸君、後でね」


「ああ」


俺は音楽室へと向かった。