きみを見ていた

幼い頃からずっと、私はばーちゃんと一緒に住んでいた。

東北にある森の中の一軒家。
庭にはたくさんのハーブが育ってる。

幼稚園から帰ってしばらくすると、
石釜の方からばーちゃんの声がする。

「メイ!パンさ焼けたよ。
ハーブの準備はできてるかい?」

「うん、ばーちゃん
ローズマリーさカゴいっぱいに摘んだ!」

「じゃ、行こうね」

ばーちゃんは明るくて料理上手。
今日も手作りのパンとクッキー、そして摘みたてのハーブを持って手をつなぎながら町の教会へ行く。

「まぁ、おいしそう。
いつもありがとうございます、鏑木さん。

ではメイさん。
みんなとお歌のレッスンをしましょうね」

この時間はいつも近所の子供たちが集まり教会で合唱の練習をしていた。

物心ついたころから毎週この時間に来ては讃美歌や童謡などいろんな曲を歌って来た。
小さな教会で鳴り響く歌声は、子供ながら天上に届いてるように思えた。

練習が終わるとばーちゃんのパンやクッキーを食べるのが皆の楽しみだった。

そんな生活がずっと続くと思っていた。




ママは東京。
パパはいない。


ママは一年に1,2度帰ってきた。
東京でいろんな仕事をしているみたい。
基本的に派手な服装が多かったが、時々OL風のスーツ姿の時もあった。

夜の仕事や昼の派遣など、東京での生活は大変みたい。
しかも、どうやら仕事はどれも長続きしてないようだった。

東京へ戻る時はいつも、今度こそメイと暮らせるように仕事がんばるからね、って言ってくれる。
ばーちゃんとの暮らしも楽しいけど、ママがそう言ってくれるとやっぱりうれしい。
ママと暮らせる日を心待ちにしていた。

ある日、クリスマスに教会で歌った時の写真をママに見せたら、ろこつに嫌な顔をされた。
後でばーちゃんに聞いたら、
「あんたのパパも歌が上手かったからね」と。
それから、歌ってることはママに言わなくなった。

私にとって歌は生活の一部だった。
鼻歌も、ばーちゃんの前で踊りながら歌うアイドルの曲も、教会の讃美歌も、私にとっては日常だった。

私が歌うとばーちゃんはいつも
「メイは将来、人気歌手になるね。
ばーちゃんが保証する」と目を細めた。


中学では合唱部に入った。
2年の秋、初めて県大会を勝ち抜き全国大会へ。
初出場で優勝した。

その冬、ママが高価な服を着て帰ってきた。
住み込みの家政婦として働いてたはずなのにどうしたんだろうと思ったら、その家の主に気に入られ入籍したのだと知った。

私はママと、山田のお屋敷に住むことになった。

「お願いよ、メイ。
やっとつかんだ幸せなの。
協力してちょうだいね」

わかってるよ、ママ。

私は歌を封印した