きみを見ていた

マリア様、教えてください。
どうしてこうなってしまったのでしょう。

私はただ、良い子でいたいんです。
せっかくママと一緒に暮らせるようになって、この家にも慣れて行こうとしているのに、どうして邪魔が入るんでしょうか。

担任の磐座っち。

ここ数年、順調に行っていた私たち母娘のやり方に横やりを入れてくるんです。

ああ・・本当に面倒な人です。
どうして私を目の敵にするのでしょうか?

歌を、やっと歌の事を考えずに勉強に没頭できる環境に来たと言うのに。

磐座っちめ、人の気も知らないで。

「マリア様、どうかどうか、私をあのドSから私をお守りください!
ぶつぶつ・・」

「なに念仏唱えてんだ?」

「ぎぇっ!」

磐座っちが私の顔を覗き込んでいる。
私の部屋で。

「しかも、失礼じゃないですか!他人の部屋に勝手に入ってきて。
ノックぐらいしてください!」

「何回したと思ってんだよ、ノック!
返事がないから開けてみたらぶつぶつ言ってるし」

「ぶつぶつって、そ、そんなの私の勝手です。
それに、念仏ってなんですか!マリア様の前で念仏唱えるわけないでしょ」

「それもそうだな」

磐座っちは胸に十字を切ってマリア様に手を組んだ。

「祈る習慣。すごく良いぞ。
つづけろよ」

「い、言われなくても!」

「さ、勉強勉強!」


ああ、今日からさっそく家庭教師磐座っちが我が家で夜8時から10時までの2時間みっちり始まるのだ~
やだよ~やだよ~

「やだよじゃない」

えっ?

「『どうして考えてることがわかったの?』
って顔すんな。おまえ、自分が思ってるより感情が顔や声に出るの知らないだろ。
おまえの心の中なんざぜ~んぶお見通しなんだよ」

そ、ならしゃべんなくったっていいのね。

「なら、しゃべんのよそうとかって思ってんだろ。
そんなことしてみろ、おまえの成績めちゃくちゃにしてやっからな。
俺が呼んだらすぐ返事しろ。
わからないことはすぐ聞け。
質問の答えがわからない時はすぐに『わかりません』と言え。
いいな、わかったか?」

ふん。

「返事は?
・・おかあさ~ん」

い、いきなり大きな声出さないで!

「わ、わかりました!」

「よし、子供じみたまねして俺を困らすなよ。
これは俺のバイトであり人助けなんだから。
俺はおまえを助けてやってるの、わかるな?
俺はおまえの担任であり部活の顧問であり、唄の師匠であり、家庭教師。
そう、学校での成績、内申書のすべては俺が握ってると言える。
つまり、俺のさじ加減ひとつでおまえの未来は決まってくる。
わかるな?」

げげっ!言われてみれば本当にそうだ!
学校での、はたまたこうして家でまで私の時間はこの磐座っちに牛耳られてる!
い、いつの間に!

「ふん・・どうやらやっと理解してきたようだな。
いいな、すべて俺の気に入るようにテキパキやれよ。
俺はダラダラすんのが大っ嫌いなんだ。
あと、女々しいのも。うだうだすんなよ、いいな。
返事!」

「・・はい」

「もう一回。
返事!」

「はい」

「返事!」

「はい!」

「よし、じゃぁ、数学からはじめっか」

このドSめ~