きみを見ていた

「フー、疲れた」

部屋に入りカバンを椅子に置くと、私はそのままベットに仰向けになった。

先ほどの、並木道でのことが頭から離れない。

「なによ、なんなのよ一体。
あったまに来るー!

私にはあーだのこーだの言いたいこと言っておいて、最後は真里菜にだけ気を付けて帰れ?
なーによあれ!

それに、どうして真里菜は名前で、私は苗字の山田なのよ」

口元が思いっきりへの字になっているのが自分でもわかった。

コンコン!
「メイ、入るよ」

「なーによ、まったく!!」

ひとりごとがエスカレートし、そばにあるクッションをドアに投げつけた。

ドアが静かに開き、クッションは部屋には行って来たその人がピタリと受け取った。

「おっ、我ながらナイスキャッチ!」

「わっ、一葉姉さん!
ごめんなさい!」

「ハハ、いいのよ。
ノック聴こえなかったのね。
学校から帰るの見えたから話ししようと来たの。
なんか、ぶつぶつ言ってたわね、どうかしたの?」

「うん・・なんでもない」

「大丈夫よ、言ってご覧って」

「うん、本当に大丈夫。
最近、部活と勉強でちょっとストレス溜まってたみたい」

「そんなに根詰めて勉強することないのよ。
あ、誤解しないでね。勉強をするなって言ってるんじゃないからね。
父はメイが医者になりたいならなればいいし、他にやりたいことがあるなら気にせずやりなさいって思ってるのよ。
病院は私と太一がいるし、もちろんメイも加わればそれもいいけど。
うちのこと気にして無理して医大受けることないのよ。
本当に」

お父様とはあまり話したことはないが、一葉姉さんはいつもそう言ってくれる。

「う・・ん、ありがとう。
でも、やれるとこまでやってみたいの。
私・・」

ママの事を思うと、自分ばかり楽するのが悪いような気がしてしまうの。
とは、さすがに言えない。

一葉姉さんは私の頭をくしゃとして顔を覗き込み、
「そっか。じゃぁ、がんばれ!
お腹すいたでしょ、そろそろ夕食よ。着替えて降りてらっしゃい」
と言うと私と一緒に座っていたベットから立ち上がった。

そして本棚にあるマリア像に気付いた。
しばらくジッとみつめて
「とても穏やかな表情。
メイはいつも守られてるのね」
と言って胸に十字を切り手を組んだ。