きみを見ていた

「さ、音楽室に戻ろう」

「はい!」

コーラス部員たち4人は駆け足で瀬戸先輩に続いた。

途中、オケ部(オーケストラ部)の部室前を通った。

何の曲だろう。
でも、磐座先生が指導はじめてたった一か月なのにものすごく上達してるのがわかる。

音楽がピタッと止まった。

「アハハ!」

中から大きな笑い声が聞こえた。

あり得ない。心の中で思った。

「なんか、ほがらかよね~」

コーラス部3年の観月七生先輩がメゾソプラノの大人っぽい声で言った。
長身でスタイル良くて姉御肌。


「ホントですよね~コーラス部の練習とは大違い!」

やはりコーラス部で一年の橘紗栄子が言った。
彼女の“これでもかぁ!”と言うほどのぶりっ子っぷりにもやや慣れてきたところだ。
子役出身でテレビにも出てたけど、今は学業に専念してる。
男や先輩たちの前ではずっとこの口調。
なのに、私の前ではだいぶ違う。

なんでだろ?
しかも、私、一年上なんだけどね。
演技達者なのね。さすがよね。
な~んて、ちょっと意地悪なこと思っちゃう。

でも、紗栄子の言ってることはホント。
磐座先生、コーラス部以外ではすごく明るく爽やか。

むん・・・
なんでだろ?