コーラス部名簿に名前が加わった。
『山田メイ』
「山田・・
どうりで、分からなかったわけだ」
驚いた。彼女を見つけた時は。
まさか、同じ校内ですれ違うなんて思っても見なかった。
二年前の全国小中学生合唱コンクール。
中学まではかろうじてコーラス部のあるわが校もこのコンクールに参加していた。
とは言っても、当時僕は歌にさほど関心はなく、サッカー部所属。
「男子のパートが足りないんだ。どうしても出てくれ」というコーラス部顧問の先生から頼まれての参加だった。
東京の音楽ホールで2日間にわたって行われたコンクール。
にわか煎じのわが校の成績は言うまでもないが、合唱、三重唱、デュエット、独唱など2位まで入賞した各学校は最終日にコンサート形式で順に発表することになっていた。
しかし、当時はそれほど音楽に興味のなかったので、その時間は申し訳ないが会場の椅子に座って僕は居眠りをしていた。
あの声を聴くまでは。
驚いた。
目が覚めた。
ホール2階の一番後ろの席で前の席にあげていた両足を思わず引っ込めた。
その美しい歌声は会場の隅々まで澄んだ空気を運んでいた。
僕は、見開いた目のまま伴奏が終るまで身動き取れなかった。
感動した。たぶん。
誰かの歌を聴いてこんな気分になったことがなかったから。
この感情は感動だ。
初出場で初優勝したA県のA中学校。
誰もがノーマークだった。
合唱自体と言うよりも、ソロを歌っている少女が尋常ではなかった。
その歌声!歌唱力!
美しく、可憐で、人の心に響く声。
それに加えなんて魅力的な歌唱力!
素人の僕にさえその才能に気付かずにはいられない。
同じ空間にいることの奇跡に感謝した。
同時に、急に恥ずかしくなった。
ホールでは遠くて顔はわからなかったが、ソロを歌った彼女は“鏑木”という苗字で、中学2年だという事はわかった。
後日届いた会報で、優勝チームの集合写真から小さく彼女の顔を初めて見た。
その日から、僕は歌に取りつかれたように練習するようになった。
高校では新しくコーラス部まで作って。
翌年、中学最後の彼女の活躍を楽しみに音楽コンクールコンサートに行った。
しかし、A中学は優勝はおろか入賞もしていない。
彼女は参加すらしていなかった。
それ以来、彼女のことは全くわからずじまいだった。
歌を続けてくれてればいいのだが。祈るように思った。
いつしか記憶の片隅に追いやられていった。
今日、すれ違った時は驚いた。
が、なぜか確信があった。
「どんな理由があるかはわからないが、入部はしてくれたんだ。
まぁ良しとしよう」
鳴かぬなら
鳴くまで待とう杜鵑・・・
はは、我ながら家康かって!心の中でツッコんでみた。
『山田メイ』
「山田・・
どうりで、分からなかったわけだ」
驚いた。彼女を見つけた時は。
まさか、同じ校内ですれ違うなんて思っても見なかった。
二年前の全国小中学生合唱コンクール。
中学まではかろうじてコーラス部のあるわが校もこのコンクールに参加していた。
とは言っても、当時僕は歌にさほど関心はなく、サッカー部所属。
「男子のパートが足りないんだ。どうしても出てくれ」というコーラス部顧問の先生から頼まれての参加だった。
東京の音楽ホールで2日間にわたって行われたコンクール。
にわか煎じのわが校の成績は言うまでもないが、合唱、三重唱、デュエット、独唱など2位まで入賞した各学校は最終日にコンサート形式で順に発表することになっていた。
しかし、当時はそれほど音楽に興味のなかったので、その時間は申し訳ないが会場の椅子に座って僕は居眠りをしていた。
あの声を聴くまでは。
驚いた。
目が覚めた。
ホール2階の一番後ろの席で前の席にあげていた両足を思わず引っ込めた。
その美しい歌声は会場の隅々まで澄んだ空気を運んでいた。
僕は、見開いた目のまま伴奏が終るまで身動き取れなかった。
感動した。たぶん。
誰かの歌を聴いてこんな気分になったことがなかったから。
この感情は感動だ。
初出場で初優勝したA県のA中学校。
誰もがノーマークだった。
合唱自体と言うよりも、ソロを歌っている少女が尋常ではなかった。
その歌声!歌唱力!
美しく、可憐で、人の心に響く声。
それに加えなんて魅力的な歌唱力!
素人の僕にさえその才能に気付かずにはいられない。
同じ空間にいることの奇跡に感謝した。
同時に、急に恥ずかしくなった。
ホールでは遠くて顔はわからなかったが、ソロを歌った彼女は“鏑木”という苗字で、中学2年だという事はわかった。
後日届いた会報で、優勝チームの集合写真から小さく彼女の顔を初めて見た。
その日から、僕は歌に取りつかれたように練習するようになった。
高校では新しくコーラス部まで作って。
翌年、中学最後の彼女の活躍を楽しみに音楽コンクールコンサートに行った。
しかし、A中学は優勝はおろか入賞もしていない。
彼女は参加すらしていなかった。
それ以来、彼女のことは全くわからずじまいだった。
歌を続けてくれてればいいのだが。祈るように思った。
いつしか記憶の片隅に追いやられていった。
今日、すれ違った時は驚いた。
が、なぜか確信があった。
「どんな理由があるかはわからないが、入部はしてくれたんだ。
まぁ良しとしよう」
鳴かぬなら
鳴くまで待とう杜鵑・・・
はは、我ながら家康かって!心の中でツッコんでみた。
