高いレンガの壁が道なりに続き行きつくと大きな鉄の門が開き、私とママを乗せた車は敷地内に入った。
中には大きな白亜の豪邸が建っている。表札には『山田』とある。私の家だ。

あ、駐車場にジャガーが。
やだ、太一兄さんいるんだ。
まぁ、当たり前か、自分の家だものね。


玄関に入るとキッチンから出てきた太一兄さんと鉢合わせた。
何ごともなければいいけど、まぁ、そんな訳にもいかないか。

「おやおや。山田家の奥方様と末のお嬢様のお帰りですか」

「ただいま、太一さん。今日はお早いんですね」

「ええ。ここ数日急患で忙しかったんで、少し早目に切り上げてきました。
ああそうだ。久しぶりに麻由美さんのきんぴらが食べたいな。作ってくれない?」

「えっ、、はぁ」

「太一坊ちゃま、きんぴらならこのセイがお作りいたしますよ。
少しお待ちくださいな。
奥様、メイお嬢様、お帰りなさいませ。
メイお嬢様はお部屋におやつの用意が出来てますのでどうぞお召し上がりください。
お食事の準備が整いましたら、お呼びいたしますので」

「ありがとうセイ。では太一さん失礼」

ママは山田家の長男・太一兄さんに軽く一瞥して2階へ上がった。

私もすぐ後に続いた。

「へっ、な~んだよセイ!
元家政婦が家にいるんだから料理くらい手伝ったってバチあたんないだろう!
この家の隅々まで知り尽くしてるんだからさ!
セイだってたまには家事やってもらって休んだらいいのさ。
見ての通りこ~んなに広い屋敷なんだ。
お手伝いの人数は多いに越したことはないからな!」

私と母に聞こえよがしに言っている。
ホント、やなヤツ。

「こら、太一!あんた、30代半ばにもなってよくそんな嫌味がずらずらと口から出てくるわね。
情けない。恥ずかしくないの?まったく。
他人の事はいいから、あんたは自分のことだけしっかりやんなさいな!」

胸のすくような言葉が聞こえた。
あ、その声は!

「一葉お姉さん!」

私の大好きな山田家の長女、外科医の一葉お姉さんが玄関に立っている。

「ただいま、メイ!元気してた?」

アメリカの大学病院で外科医として研修期間を含め数年勤務している一葉お姉さん。


2年前、母の結婚と同時に中学三年生の私はこの家で住むようになった。

慣れない環境、太一の執拗な嫌味に疲れ切っていた中三の夏休み、一葉お姉さんがアメリカから一時帰国してきた。

太一の一つ年上で、美人で背が高く、外科医としても超一流でサバサバした性格。
私やママにも隔たりなく接してくれて、本当に素敵な大人の女性。

お手伝いのセイさんと一葉お姉さんのおかげで、私とママはこの家で何とかやっていけてると思う。

「一葉お姉さん!帰るなんて聞いてなかったのに、どうしたの急に?」

「うん、急きょ帰国が決まってね。連絡する間もなく帰って来たのよ」

「わぁ、うれしい!で、いつまでいられるの?」

「アメリカの大学病院での研修期間はとっくに終了しているし、これからはうちの病院で勤務することになったのよ。
もちろん、この家から通うわ。
仲良くしようね、メイ!よろしくね」

「ホント!うれしい!!」

私は一葉お姉さんのに思わず抱きついた。

20歳年の違う頼りになるお姉さん。
私は嬉しくて小躍りした。