「あ、もうこんな時間か……ゆめちゃんは帰らないといけない時間だよね。」


彼が私を気遣って声を掛けてくる。


「……うん。そうだね、帰らないと。」


そう言って私達は立ち上がり店の前まで来た。


「今日はありがとう、史哉さん。とても楽しかった。」


そう言って帰ろうと思って彼に背を向けた。


「ゆめちゃん、本当に本当にありがとう。礼を言うなら僕の方だよ。」


私は振り返らなかった。



「僕、きみにまた会いたい。」



結構大きな声だったと思う。


私は彼がなんて言ったかわからなかった。
頭で理解できなかった。


「ケータイの番号、交換してもいいかな?」


私はやっと振り返った。
状況を理解した。


「もちろん……だよ。」


こう言った私の顔はどんな顔だっただろうか。
真っ赤で情けない顔だったかもしれない。
ふにゃふにゃでブサイクだったかもしれない。



彼は笑顔だった。



私がどんな顔をしても笑顔だった。



「また、来週。」



その言葉は魔法みたいで…………。



「史哉さん、またね。」


彼は振り返って歩き始めた。




私はずっと彼を見ていた。


史哉さんの背中を見ながら私は、泣きそうになった。


この感情はなんだろう。


すごくすごく離れがたかった。