突然聞こえた声に私はハッと顔を上げた。
「……魁」
すぐ前で目を見開きながら見下ろしている彼に、私は慌てて涙を拭く。
「何してんだよ、こんな所で……。って言うか、何で泣いてんの?」
「別に泣いてないもん……っ。魁こそ何でこんな所にいるのよっ」
笑顔を向けているものの、内心はとても焦っていた。
何でこんな時にこんな所で……
それも、よりによって泣いてる時に。
「俺はトイレ行くとこ。誰かいると思ってたらお前だし、泣いてるし……」
「だから泣いてないってばー」
「アホか、そんなわかりきった嘘つくんじゃねーよ」
大きな溜め息と共に、魁は私と目線を合わせるように腰をおろす。
「……何があったんだよ。誰かに泣かされたのか?」
「そんなんじゃ……」
「言えって。俺がやり返してやるから」
小さな子供をあやすかのように、魁は私の頭をくしゃくしゃに撫でる。
間近にある魁の顔。
彼の優しさは、より一層私の涙腺を破壊した。



