魁の顔も見ないままに、私は逃げるように走って教室を出た。
もう、顔も見たくない。
悔しい、悲しい。
その感情しか頭に浮かんでこない。
教室に鞄を取りに行くと、私は一目散に走った。
離れたかったから。
前も見ないで走り続けていた。
どこへ向かっているのかもわからない。
すると突然車にクラクションを鳴らされて、私の足が止まる。
ハッと顔を上げると、私は赤信号の横断歩道の上にいた。
目の前を通過する1台の車。
もう少しで、ひかれるところだったんだ。
信号は青に変わり、私は歩き出した。
少しだけ我を取り戻して鞄の中からスマホを取り出すと、彩葉にむけて発信した。
『もしもし?桜綾!?』
電話に出た彩葉はすごく楽しそうな声。
きっと期待をしていたんだと思う。
私の言葉を。
「今どこ?」
『今?いつものカフェにいるよ。逢織も瞳も一緒』
「そう……今から行くね」
『は~い。待ってるね!』
電話を切った私は、今度はとぼとぼと歩きだす。
辛い事があった時、私は1人になりたくなくて、誰かに側にいてほしかった。
だからそのまま家に帰るなんて出来なかったんだ。



