きっと悪気はなかったんだと思う。急に目の前に誰かの足が出てきて、それに引っかかってしまったから。
だけど頭上からは渦のように笑い声が降り注いでくる。
その時に頭の中に浮かんできたのは、あの時と同じ場面だった。
“だっせー”
わざと足を掛けられて、囲まれてお金を奪われそうになったあの時。
泣きそうでたまらなかった時と、今まさに同じ。
恥ずかしいなんてもんじゃない。消えかけていたあの噂も一緒に蘇ってきたから。
「片桐……何してんだよ」
魁の声。やっぱり魁もいたか。
腕を捕まれて立ちあがると、急に涙が溢れてきた。
「おい?」
パッと顔を上げてしまい、魁と目が合う。
「何だ……魁か……」
笑いながらすぐにまた下を向いたけど、魁は凄く驚いた顔をしていた。
泣き顔見られたかも……
「桜綾っ?」
後ろからパタパタと走ってくる足音。
彩葉たちが私に気付いたみたいだ。
「どうしたの?大丈夫?」
「うん。ちょっと転けちゃってさ」
よりによって男子に囲まれた場所なんて。
すぐ行こうとしたけど、後ろから声が聞こえた。
「まじあの女アホじゃん。それともアレじゃねえの?か弱い態度見せるとか計算だったりして」
クスクスと笑う声。小声だったけど、ちゃんと私にも聞こえていた。
やっぱり噂は消えてなかったか。
聞こえないフリをして、私は流そうと思ってたけど……
「彩葉?」



