涙目になっている明菜に近付いて、私は腕を掴んだ。



「な、なぁに?桜綾」


「そこまでして私を悪者にしたいの?」



ウソの笑顔もいらない。


こんな最低な人間のせいで、私の人生めちゃくちゃにされるくらいなら自分から……



「え?何のこと?」


「尊琉君は何も関係ない人よ。巻き込んだりしないでっ」



またとぼけて、知らないフリして、全部うんざり。


すると明菜は私の手を払って、きゅっと尊琉君の腕にしがみついて私を指差した。



「ほらね、こうやってすぐに何でも私のせいにするのっ‼全部私が悪いって責めるのっ」



そう言って明菜はまた、涙を流した。



「っ‼」



ザワザワとし始める廊下。


何だ何だと人がこちらに視線を集め始める。




尊琉君の目は……とても冷たい。



私はその場にいられなくなって、事が大きく広まる前に逃げ出した。











こうなることはわかっていた。

だから涙なんて出ない。



ただ悔しかっただけ。

疑問で仕方ないだけ。



どうやったら、明菜から逃げられるんだろう。


立ち向かったって敵が増えるだけ。



私のことよりも明菜を信じるのは、やっぱり可愛いから?

か弱いから?


泣いた人が勝ちなの?


じゃあ私が泣いたら信じてくれるの?



……でも泣いて負けだと認めたくない。


だから私は絶対に泣かない。




尊琉君にも申し訳ないことしたな……


勝手に巻き込んで、絶対迷惑だよね



もう誰にも関わらないでおこう。

じっとしておこう。


私にはわかってくれる人がいるから、それでいいんだ。









「……片桐?」



魁の声が聞こえたような気がしたけど、きっと気のせいだと思った。