「何考えてるんだろ……来るわけないってのに……」
フッと笑みを浮かべて、再び箒を動かした。
……その時。
「手伝おうか?」
後ろから声が聞こえて、私はドキッとした。
もしかして――……
ほんの少しだけ、胸が高鳴る。
だが振り返ってそこにいたのは、知らない男子生徒だった。
誰だろう……見たことないな。
名前も顔もわからないのにいきなりそんなこと言うなんて、変わってる人……
「片桐……桜綾ちゃんだよね?」
「?そうですけど……」
スリッパで同じ3年生ってことはわかるんだけど……人数多いから全員覚えられないんだよね。
彼は何も言わずに私の横を通り過ぎると、掃除道具の中から箒を取り出した。
「あ、あの‼いいですよっ、私1人で出来るから……っ」
「いいからいいから。気にすんなって」
ずっとニコニコと微笑んでいる彼は、私の言葉を無視して床を掃きはじめる。
いいのかな……
どうしたらいいのかわからなくて、私も黙って手を動かした。
「うわ……この教室汚ねぇな。1人じゃ大変だろ?」
「うん……まぁ」
そんな慣れたように喋りかけられても、私は初対面だしどう話たらいいのか……
「俺さ、6組の蕪城尊琉(カブラギ タケル)っていうんだけど、知らないよな?」



