恋するホイップ








「麻由ちゃん!これ2番の客室に持っていってくれる?」


「はい、すぐに!」


「増田さん、さっきのオーダーもう一回お願いします!」


「アイスコーヒーとチョコクリームパフェですね、かしこまりました」



「やば、この機械故障してるかも」


「なんとかならない!?」


「とりあえずしばらくは保ちそう…かも。いややっぱり無理かも」


「どっち!?」


「ちょっと誰かレジーー!」




店のドアベルはひたすらなり続けていた。


客間では賑やかにお茶を楽しむお客さんの声が


厨房では副店長と従業員の叫びが飛び交っている。



私がシフトに入ったときからずっとこのペースが絶えない。


さすが隠れた名店…新メニューも大人気で客寄せ効果も抜群だ。


ただし務める従業員の疲労もピークに達している。



「この忙しさ、ゴールが見えないからなおさらしんどいわ」


大西さんがせっせと食器を洗いながら言う。



「たぶんもう1週間くらい続くかもしれないですね」


「こりゃ今日も残業ね。ま、ここは残業代ちゃんと出るからやりがいはあるけど」


「ふふ、そうですね」


忙しいのは大変だけど


こうやって合間にたわいのない会話ができるから精神的に苦ではない。



「もうそろそろ9時回るね。麻由ちゃん、今日も大丈夫?」



増田さんがよってきて気遣うように聞いてくる。

たぶん残業のことだろう。



「大丈夫です!ぎりぎりまでやれます」


「ありがと〜、ほんと助かるよ。今日は帰りに大福あるからね」



「だっ…大福…ッ!?」


な、なんて豪華な仕事後のご褒美…!!


一瞬にしてきらっと目が輝いたのがわかりやすかったのか、増田さんはくすりと笑って「それじゃ、よろしくね〜」と足早に事務所へ入っていった。




「麻由ちゃんホント甘いもの好きねぇ」


「昔はこんなに甘党じゃなかったはずなんですけど…ここに勤めてから食欲が止まらなくて困ってます」


「若いうちはいくら食べても太んないから大丈夫よ。あたしくらいになるとね、まあホラ、いろいろあるけど」


大西さんはフッ…と自嘲気味に笑い、ちらりと自分のお腹あたりを見てまた笑った。



「三十路の壁はしんどいわぁ」


「大西さん、綺麗ですよ。体型もすらっとしてるし」


「ふふふ…そんなおだてちゃって、おばさんすぐ調子にのるからやめてちょうだい」



私たちはお互いにアハハと笑い合いながら、それぞれの作業に専念した。