「麻由ー? 話し声聞こえたけど帰ってきてるの……って、うわっ」
玄関のドアから顔を出したお母さんが、その場にうずくまる私をみてぎょっとしたように声をあげた。
「ちょっと、帰ってきてたんならそんなとこ座ってないで入りなさいよ」
「………」
「まゆーー、具合悪いの? そういえば彼氏は?」
「……彼氏……」
たぶん、さっきまでなら勢いよく否定していた。
だけど、もう大胆に宣言できない。
今までに起きたことの整理が全然つかない。
隼人くんの言葉、行動に、すっかり打ちのめされてしまった。
「お風呂入る……」
「え? あ、あぁ…沸いてるけど…」
ぼうっとしたまま家に入って、
フラフラする足で自分の部屋までの階段を登る。
私の異常な様子を見ながら、お母さんが「…のろけたのかしら」と妙に勘のいいことを言ったのを聞き
私はさらにダメージをくらって、部屋のドアを勢いよく閉めた。


