「麻由」
「…!」
ぐっと引き寄せられ目の前に迫った彼の顔は、思わず見惚れてしまうほど優しい表情で…
私はカラカラになったのどを潤すためにつばを飲み込んだ。
「俺が名前で呼ぶのに、お前は苗字とかおかしいだろ」
「う…えぇと……はい」
もうすっかりこの人の言うことに逆らえない。
いくら拒否しても負ける気しかしない…。
「じゃあ……隼人…くん?」
「『くん』はいらねーんだけどな…」
「そんなこと言われても…! これで譲歩してください!」
もうこれだけで蒸気が出そうなほど顔が熱いのに。
これ以上のことを要求されたら倒れる。
「ま、今はいいか。ねえ、もう一回呼んで」
「もう一回? …隼人くん」
「………もう一回言ってみて」
「? は、隼人くん」
「……………」
自分で3度も呼ばせておいたのに、隼人くんは首のあたりをさするだけで返答がない。
「…うん、えっと…じゃあ、それで」
「…? はい」
彼の反応にいまいちついていけず首をかしげるも、隼人くんはそんな私を気まずそうな表情で見つめかえす。
「…あのさ、今度テストとかでここ来れない時、絶対言えよ」
「いきなり来なくなるのとかもう勘弁だから」と隼人くんは独り言のようにつぶやいた。
忘れられてる可能性も心配してた私としては、飛び上がりたいほど嬉しかったけど
喜ぶ前に次の発言がそれを留めた。
「それから、今日から夜繁華街通るの禁止だから」
「ええっ!?」


